今やビジネス界にのみならず、どの業界や会社においてもPDCAサイクルは当たり前の言葉となりつつあります。
私の関わっている教育界においてもPDCAサイクルは知らない人はいないでしょう。
ビジネス界から2テンポも3テンポも遅れている教育界でこれだけ浸透しているのでなかなかすごいものです。
しかし、教育界においてPDCAサイクルは適さない、うまく機能していないと思っています。
今回は適さない理由やPDCAサイクルに変わる新たなフレームワークを紹介します。
PDCAサイクルのおさらい
計画(Plan)を立て、
実行(Do)し、
評価(Check)、
改善(Action)するという
サイクルを繰り返し行うことで継続的な業務の改善を促す方法です。
この技法は1950年代に品質管理研究の第一人者であったアメリカの統計学者によって提唱され、現在では品質管理の国際基準となっているものにもPDCAの手法が取り入れられています。
また、多くの組織でも取り入れられ、ビジネスパーソンにとってはなじみのあるものとなっています。
PDCAサイクルのメリットと注意点
PDCAサイクルの最大のメリットは
・目標ややることが明確になる
・課題が分かりやすい
ということでしょう。
きちんと「評価(Check)」し、それに応じた「計画(Plan)」を立てているので、質の高い「行動(Do)」に繋がります。
逆に考えると、この「計画(Plan)」と「評価(Check)」をおろそかにすると、非常に質の低い「行動(Do)」となり、非常に質の低いサイクルとなってしまいます。
目標は立てているが、その行程が描けていなかったり、そもそも現状分析しないままの目標だったりすると、質の低い行動(Do)となります。
「できることからやってみるか」とか「がむしゃらにやってればOK」とか「ベクトルがずれている」とか…。
そして評価する際には、「う~ん全体的に合格だね」「もう少し頑張ってみようか」なんて言葉が出てきたら最悪です。
PDCAサイクルの最大の欠点
そしてこのPDCAサイクルの最大の欠点は、改善までのサイクルに時間がかかることだと思っています。
この方法が提唱された1950年代に比べ変化のスピードが格段に速くなった近年において、基本となる計画を繰り返しながらアップデートしていくPDCAサイクルは時間がかかりすぎです。
入念に「CHECK」して
さぁそれを基に「どうしていこうか?」と考えて、「よしこの計画で行こう!」と丁寧に目標や手立てを考える…。
その頃には時代は変わっているかもしれませんね。少なくとも状況は変わっています。
学校にPDCAが適さないわけ
特に子供を教育していく教師という職業や学校という場はさらに変化は激しいと言えます。今日の表れと明日の表れは違います。もしかしたら今と5分後は違うかもしれません。だからこそ、目の前の子どもを成長させてあげたいと思ったら、ゆっくりと評価して対策を考えて…という時間はありません。というか対策を考えてよしやろうと思ったころには既に子供の表れは変わってしまっているかもしれません。スピード勝負なのです。
また、今の学校現場は、しなければならないことで溢れています。あらゆる問題がひっきりなしに起こって先生方はその対応をすることに必死です。一番しなければならない授業の準備すら、する時間が取れないのです。
そんな中で「今の状況を評価して、これからどうしていこうかと考えて…」と入念にやっている時間など存在しないのです。
また、企業のようにそれを専門で行う部署があるわけではありませんし、それを司るであろう教務主任や主幹教諭といった先生も、あらゆる現場対応に追われています。
学校という性質上、トップダウンもあまり好まれません。
OODA(ウーダ)ループとは
そこでPDCAに代わる新たなフレームワークとして登場したのが「OODA(ウーダ)ループ」です。
OODAは
「Observe(観察)」
「Orient(状況判断)」
「Decide(意思決定)」
「Act(行動)」の略称です。
PDCAと最も異なるのが、「個人」の行動を管理し、その時々で変化していくさまざまな要因に対応しながらよりよい成果をみちびきだすためのモデルだということです。
なぜ学校にはOODAループがいいのか
PDCAの欠点でもお話しした通り
教育界では、とにかく変化に対応することが必須です。子どもたちにリアルタイムで対応していくことが求められます。
これを、PDCAサイクルのように、
授業が終わって「あの子がああだったな~」「じゃあ次はこうしてみようかな~」と落ち着いて考えることも大切ですが、明日にはすでに変化していることが多々あります。
それよりも、その場で子供を観察(Observe)し、現状判断(Orient)し、その子への最適な支援や指導を決定(Decide)して行動(Act)することが最も大切ではないでしょうか。
これがリアルタイムでの価値づけ・支援です。
これができる指導者はいい指導者と言えるでしょう。
OODAの一番の肝は「観察力」
私はOODAループにおいて、観察(Observe)が最も重要かつ難しい部分だと思います。
二つの例を挙げます。
私が、妻とサッカーW杯を観戦している時、妻は「何であの選手はパス出さないんだよ~出せるじゃん!」と怒っていますが、サッカー経験の長い私は「パスは出せるんだけど、出しても次のプレーにつながらないし、背後にいる5番が狙っているからね。」と思っています。
一つのプレーを見ても、サッカーを経験している私は多くを見て取れるのに対し、サッカー未経験の妻は多くは見て取れないのです。これは、どんなスポーツでも言えるでしょう。
M-1グランプリでも、同じ漫才を見て居るのに、私は「面白い」「つまらない」としか分からないのに対し、審査員は細かな「技」や「間」まで見ることができます。
「観察力」と高めるためには「知識」
この「見られる人」と「見られない人」の違い、つまり観察力の差はどうして生まれるのでしょう。
それは知識量の違いです。あえて言えば、サッカー未経験でも知識が豊富な人は見て取れるでしょうし、漫才ができない人でも、漫才を研究すればその技や間に気付くことができるでしょう。
知識を増やす、つまり教材研究はだから重要なのです。だから多くの先生授業を見たり、多くの本を読んだりすることが重要なのです。経験も大事ですが、知識もおろそかにしてはいけません。どちらも重要です。
あなたは体育「跳び箱」の授業で的確なアドバイスを与えられますか?
あなたは図画工作「風景画」の授業で的確なアドバイスを与えられますか?
あなたは算数「分数」でつまずている子に的確な支援ができますか?
全て明日では遅いです。
今、ここで、目の前の子供の演技や作品、様子を見取って(Observe)、何が課題なのか判断し(Orient)、最適な支援や指導を決定(Decide)して行動(Act)することが重要です。
最適な支援や指導の方法は当然ベテランの先生の方がうまいでしょう。なぜならこれは経験で積み重ねられた技や無数の引き出しを持っているからです。
子供にもつけさせたOODAの力
大人に限らず、次世代を生き抜いていく子供たちもこの力は必須になります。
だからこそ、少しずつ身につけさせていく必要があると私は考えます。
少なくとも観察力とそれを高めるための知識を増やしていくことはできるでしょう。
体育「跳び箱」の授業で、「お互い見合ってアドバイスしてあげなさい!」と先生が言っても、正直無理です。
なぜなら子供たちは見えているようで見えていないからです。何を見ればいいのか、どこを見ればいいのかという知識が不足しているので観察する力がありません。
だから「いいね〜」とか「もうちょっとかな〜」という非常に質の低いアドバイスにしかなりません。
だからまずはOODAループの、土台である「観察」する力を付けさせること、つまり「知識」を与えてあげることをしなければいけないのです。
アドバイスって実はすごく高度なことなのです。時々いるそれができる子は、勉強熱心で知識が入っている子だったり、社会体育でコーチからあらゆる指導を受けるうちに自然と知識を習得している子なのです。これをノーマルとして考えてはいけません。
まとめ
OODAループについて理解できましたか。
特に観察力を高めていくことの重要性を感じることができましたか。
正しく見て取れない人は正しい判断やアドバイス、行動はできません。
これは他人を見ることに限らず、自分を見ることも同様です。
あなたは自分を正しく観察できていますか?
客観的に見ることができていますか?
これができている人ほど成長していくのです。
コメント